FROM 安永周平 @博多のオフィスより
ある大手自動車メーカーの開発現場で、不思議な事が起こった。今まで見たこともないようなカッコいいデザインの、スーパーカーの企画が行われていた頃の話である。そのデザインの依頼を受けたカーデザイナーは、開発の担当者から「技術上の要件は考慮せず、自由に考えてほしい」とお願いされていた。制約のない、まっさらな状態で自由に創造力を発揮してもらいたい…と。
担当者も、その方がデザイナーも仕事をしやすいだろう…と思ってのことだった。きっと、これまでにない斬新なデザインを生み出してくれるだろうと期待が膨らんだ。しかし、なかなか仕事は進まなかった。待てど暮せど、デザイン案は上がってこない。怪訝に思っていた担当者のもとに、デザイナーが困り顔でやって、こんな事を訴えてきたそうだ。
「何か少しでもいいから、技術的に正しい方向での制約条件が欲しい」
これは、ソフトバンクで人型ロボット「Pepper」の開発責任者を務めて世に送り出した林要さんが、前職のトヨタ自動車でレクサスLFAのプロジェクトを担当していた時に起こった話だ(※著書『ゼロイチ』より)。当時、空気力学のエンジニアだった林さんは、常に制約と戦っていた。それを不自由に感じていたからこそ、デザイナーには、あえて制約を外して考えてもらおうと思ったのだ。
普通、世間では「クリエイティビティには自由が必要」と思われている(だからだろうか?フリーランスで働くデザイナーの人たちはライフスタイルに自由を求める傾向があるように思う。ノマドワーカーとか…)。しかし、それは本当だろうか?クリエイティブな仕事の代表とも言われるデザイナーの仕事で、しかも世界最大の自動車メーカーの社運を賭けたスーパーカーのデザインを任されるような一流のプロフェッショナルが「制約条件が欲しい」と言う。クリエイティビティに自由が必要なのであれば、これはとても変な話である。
「制約条件こそがアイデアの源である」
当時の開発担当であり、現在はロボットのベンチャー企業『GROOVE X』の代表を務める林さんは、後にその理由が徐々に分かってきたと言う。というのも、人間の脳は適切な制約条件がなければ「思考の焦点」が定まらず、何をやったらいいのかがわからなくなってしまう性質があるのだそうだ。つまり、制約条件があることで初めて、思考の焦点が定まってくるということ。そして、これはデザイナーに限らず人間なら誰でも同じことが言える。
ちょっと思い出してみてほしいのだが、あなたは商談後や何かのタイミングで、お客さんに「誰か知り合いを紹介してもらえませんか?」と聞いたことはないだろうか?あなたが営業の仕事をしているのなら、きっと1度くらいは経験があると思う。そして、そう聞いた後の相手の反応も、かなり鮮明に思い出すことができるだろう。きっと、相手は渋い顔をしたり、あるいはおもむろに宙を見上げて、こう言ったのではないだろうか?
「・・・紹介できる人がいたら連絡するよ。」
ただ、ボブもよく言うことだが、この言葉を聞いた後に実際に連絡が来て紹介をもらえる…なんていうミラクルはまず起こらない。そう、このやり方では、紹介をもらえる可能性は非常に低いのだ。これはいったいなぜだろうか?
勘のいいあなたは既にお気づきかもしれないが、これこそ思考の焦点が定まっていないことが原因である。もっと言えば、聞く側の人間が、相手に考えるキッカケを”与えられていない”ことが原因だ。聞き方が悪いから、相手は答えにたどり着けないのだ。「誰か知りませんか?」というのは、聞き方として、あまりに漠然とし過ぎているから具体的な名前が浮かばない。
「何かおもしろい話してよ」と言われたら?
たとえば、あなたが友達と話をしていて「何かおもしろい話してよ」なんて無茶ぶりをされたとしよう。さて、あなたは今すぐにおもしろい話ができますか…という話だ。きっとあなたもこれまで、面白い話は何度も聞いたり、体験したりしたことがあるだろう。ところが、突然言われて、すぐに出てくるかというと…これは芸人さんでも難しいはず(すべらない話の緊張感を見れば一目瞭然だ^^;)。
もしかしたら、あなたは日頃からそういう話をストックしているのでできるかもしれない。しかし、相手が同じようにできるかどうかは、はなはだ疑問である。だからこそ、相手が思いつきやすくなるように聞くことが大切だ。では、どうすればいいのかというと、ここで「参照範囲」という制約条件が必要になる。これはトム・ホプキンス氏の名著『営業の魔術』の中で示されている解決策の1つだ。たとえば…
営業「そういえば、ゴルフが大好きだっておっしゃってましたよね。」
顧客「ええ、始めてもう10年になります。退職したら、毎日プレーするかもしれませんね。今はほら、週末しかできないから。まあ、そうは言っても毎週末やってますがね。」
営業「へえ。よく一緒にラウンドするゴルフ仲間などはいらっしゃるんですか?」
顧客「ええ、もちろん。鈴木さん、田中さん、佐藤さんの3人かな、よく一緒に回るのは。」
営業「山田さん、もしご存知だったらでいいんですが、その中に○○を必要としている人は…」
とまぁ、こうした具合である。これによって、漠然とした範囲が、ゴルフ仲間3人という、具体的に名前を思い浮かべられる範囲に絞られたわけだ。「知り合い」という大きすぎる範囲から、所属するグループやコミュニティの中の3~5人程度に、範囲を絞ることができた。この制約条件によって、相手に思考の焦点が生まれる。だからこそ、見込み客の知り合いとなりそうな人の名前も思い付く可能性が上がるのだ。
参照範囲を絞って聞いてみよう
ポイントとしては、所属する組織など具体的な範囲を指定して、個人名を浮かべてもらおう。5人程度までなら、人は具体的に思い浮かべられると言われている。それから、注意して欲しいのは「誰か」と言わないことだ。この言葉によって、相手が参照する範囲は広がってしまい、思考がどんどんぼやけてしまう。
それから何でもそうだけど、最初の1人を挙げてもらうのが1番大変だ。1人目が出るまでは、色んな視点から範囲を絞ってみることが大切である。範囲を絞るというのは、チャンスを取りこぼしてしまうようなイメージを持ってしまいがちだ。しかし、真実はその逆で、範囲を絞る、制約条件を与えるからこそ、現実的な成果が現れるものである。
ぜひあなたも、次の商談後や何かのタイミングでやってみてはどうだろうか?もしあなたが、相手から「知っていて、気に入っていて、信頼されている」という関係を築くことができていれば、きっと知り合いを紹介してもらえる確率は上がるだろう。
PS
ただ、残念ながら相手と信頼関係を築けていない段階では、この聞き方を含め、どんなテクニックを使っても紹介はもらえないだろう。もし、現時点でそうした関係になっている場合は、一刻も早く、紹介をお願いするまでのプロセスを見直す必要があると思う。
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結婚生活の先輩方、「なにか面白い話してよ」という妻の無茶ぶりにスマートに対応する方法をご存知でしたらぜひ教えてください(;´д`)トホホ…