不毛な交渉、建設的な交渉…

From 安永周平

下請け「それで、見積もりに関してですが…こちらです。資材の仕入れ、工事費、諸経費、法定福利費など。諸々含めまして、総額で150万円ほどになります。」

元請け「それでは高過ぎる。他の業者はもっと安くやってくれる。うちの実績だと半額の75万くらいだ。75万円でやってくれ。」

下請け「うちもギリギリの線でやっています。その金額では単価が合わず、赤字工事になってしまいます。せめて125万円はいただかないと…」

元請け「うーん…わかった。では、キリよく100万円でどうだろう?」

下請け「わかりました…本当にギリギリですが、それでやらせてもらいます」

交渉でよくある「腹の探り合い」

これは、建設業なんかではよくある交渉の場面です。特に、元請業者が下請けを”買い叩く”ために値引き交渉をしてくるのは日常茶飯事。はたしてこれを「交渉」と呼んでいいのかどうかわかりませんが、これが続くとまぁ不毛な値引き合戦です。もちろん、下請け側も買い叩かれることを分かっていますから、最初に提示する金額を高めに出してくるわけです。いわゆる「アンカリング」ですね。

交渉において最初に切り出す条件(数字)をアンカーと言います。アンカーとはもともと、船をつなぎとめる碇の意味です。人間はこのアンカーに引っ張られて考える癖がありますから、最初のアンカーとしてどのような数字を出すかは重要になります。たとえば冒頭の話で、もしかすると下請けの担当は、元請け業者に「100万円の予算(支払い能力)」があることを知っていたのかもしれません。

つまり、75万円でも利益は出るけど、もっと利益を増やすために、最初のアンカーを150万円と高く設定した可能性もあります。妥協したように見せかけて、最終的には100万円に着地させる…というのが、下請け側の担当が最初から描いていた”絵”だったのかもしれないのです。これはもう「腹の探り合い」ですよね。少なくとも、信頼関係に基づいた交渉とは言い難いです。

そこに論理や公正さはあるか?

こうした交渉が全て悪いわけではないでしょうけど、少なくとも、そこには論理や公正さがありません。お互いにもっと利益が欲しいと思っているだけで、自分の利益を増やすために「いかにして相手からお金を奪うか」ばかりを考えているのです。根拠なき数字や、一時的な感情に左右される交渉です。どちらかが勝てば、どちらかは負ける。つまりは、Win-Lose(Lose-Win)の交渉だと言えるでしょう。

しかし、『逆転交渉術』の著者であり元FBIの人質交渉人であるクリス・ヴォス氏は、弊社の『月刊GO-GIVERS』に出演してもらった時に、交渉の本質はもっと別にある…といった話をしていました。というのも、交渉の本質とは「譲歩せずに自分の欲しいものを手に入れること」だと言うのです。逆に言えば、自分の目的を見失ったり利益を減らしたりするのは、本質的な交渉とは言えないということ。

元FBIの人質交渉人が語る”最悪な交渉”

また、最悪な交渉とは「欲しくもないもの、望まない結果を手にする可能性がある交渉」だと言います。これを避けるためには、交渉の際には「私は〜といったを望んでいる」とハッキリとした意思表示をする方が賢明です。なぜなら、こちらの目的を相手にハッキリと伝えることで、相手にそれが実現可能かどうか”考えさせること”ができるからです。協力体制を築くキッカケになります。

自分の望みが正しく伝われば、それは相手の望みと両立できるものだと分かるかもしれません。そして、相手と協力する土台が生まれるかもしれません。Win-Winの交渉ができる可能性も上がります。一方で、自分が望んでいることが相手に伝わらない状況で、相手の協力など得られるはずがありませんよね。意外かもしれませんが、本質的な交渉をしたいのであれば、自分の望みはしっかりと伝える必要があるのです。

自分の望みを伝える前にするべきこと

ただ、多くの人が犯す間違いは「相手の望みを理解する前に、自分の望みを通す」ということです。名著『7つの習慣』の原則でも、理解してから理解されることの大切さが語られていますよね。相手の望みを理解もしないで、自分の望みだけを通そうとする…あなたはそんな人と一緒に仕事をしたいと思いますか? 人は自分を理解してもらえると期待しているからこそ、交渉相手にその人を選んでいるはずです。

だとしたら、相手を理解するプロセスをすっ飛ばして、交渉なんてできるはずがありません。それでは、猜疑心に満ちた「腹の探り合い」にしかなりません。その時は自分に都合のよい契約ができるかもしれませんが、長期的な関係など築けるはずもありません。交渉はコミュニケーションです。お互いの信頼関係に基づいてこそ、本当の意味での交渉ができると僕は思うのですが…さて、あなたはどう思いますか?

PS
先のクリス・ヴォス氏の対談が聞ける『月刊GO-GIVERS』はこちらから。最近は動画コンテンツも提供しております。

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この記事の執筆者

寿コミュニケーションズ株式会社代表取締役/寿防災工業株式会社取締役。読者1万人超の当メルマガ『THE GO-GIVER』発行人であり、福岡で40年続く社員52名の防災設備会社 二代目。1982年生まれ。福岡県出身。筑紫丘高校→九州大学工学部卒(修士)

新卒でトヨタ自動車に入りマークXやクラウンのモデルチェンジ、バンパー塗装工場の新設を担当。4年目で退職し半年のニートを経て教育ベンチャーのダイレクト出版へ転職。1通のセールスコピーで累計2万人超の新規顧客を獲得したマーケティング経験は宝。マネージャーとなりメンバーから総スカン喰らった経験も宝。事業部が年商7億となった5年目、独立して寿コミュニケーションズを創業。

WEBメディア事業のお客様からの依頼でDMサポート事業を始めたら、紹介だけで受け切れないほど仕事依頼があり、現在は新規クライアント受付停止中。BtoB無形商材に特化したDM戦略&戦術が強い。本業は「人の命と建物を火災から守り地域の街づくりに貢献する」防災設備会社で事業承継を前提に組織改善と採用に奮闘中。