新人営業には見えていないもの

From 安永周平

あなたが営業をしているなら、「バイイング・シグナル」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、見込み客の買う意思や話を先に進める意思を示すサインのことです。そして、営業の世界では、こうした動きが見られたら商談が上手くいく確率は高くなる…と思われています。ところが、現実にはそれだけだと説明がつかない状況がよくあるんですよね。

たとえば、ハスウェイト社の創業者であるニール・ラッカム氏は、著書『大型商談を成約に導く「SPIN」営業術』の中で、ある電気通信業で働く新人の営業マンへのインタビュー内容を紹介しています。新人の彼は、この商談に自信を持っているようですが…

新人営業マンへのインタビュー

質問者「…それで、商談はうまくいったと思いますか?」

新人「えぇ、そう思います。」

質問者「うまくいったと思うようなことを、見込み客が口にしたんですか? たとえば、バイイング・シグナルとか。」

新人「ええ。午前中のピーク時に生産能力に問題があると認めていました。

質問者「他には?」

新人「データ送信の質に満足していないそうです。」

質問者「それらの”シグナル”を根拠に、商談がうまくいったと?」

新人「そうです。なんと言っても、そのどちらの問題もうちの商品で解決できますから。商談がまとまる可能性は高いと思います。」

成功すると思っていた商談が…

新人の営業マンは、見込み客が2つの問題を持ち出したので商談成功とみなしていました。自社の商品でその2つの問題が解決するので、買ってくれると思ったわけです。しかし、2週間後、彼は見込み客がライバル社とも商談をしていることを知って愕然としました。それから数ヶ月後、この取引はライバル社が勝ち取ることになったんです。

さて、いったい何がマズかったのでしょうか? 実は、これと対照的なインタビューがあります。同じ会社で働くトップ営業の女性へのインタビューです。彼女は400人を超える営業の中でトップ5に入る逸材です。では、彼女へのインタビューを見てみましょう。

トップ営業へのインタビュー

質問者「この商談はうまくいきましたか?」

女性「なんともいい難いですね。我が社で解決できる問題はいくつか見かけましたが、またこの見込み客と会って問題点を大きく育てないことには、商談がうまくいくかどうか判断を控えたいと思います。」

質問者「つまり、今回判明した問題点はバイイング・シグナルとはみなさない、ということですか?」

女性「間接的にはバイイング・シグナルだと思います。ともかく問題を見つけることはできたのですから。でも、ポジティブなバイイング・シグナルとまでは言い切れないですね。」

質問者「一般的に、商談がうまくいったと思えるバイイング・シグナルとはどのようなものですか?」

女性「見込み客がなんらかのアクションがらみの話をするときですね。たとえば、来年、データネットワークを変更する予定です、とか、これら3つの特徴を兼ね備えているシステムを探しているんです、とか。」

質問者「”潜在ニーズ”と”顕在ニーズ”の違いをご存知なんですね。顕在ニーズは潜在ニーズよりもよいバイイング・シグナルだと言っているように聞こえますが、そういうことでしょうか?」

女性「そうです。問題点にだけ頼ることはできません。もっと確かなものが必要です。見込み客に問題点を認めさせることは、それほど重要なスキルではないと思うんです。商談で合う人はほとんど誰でも何かしら問題を抱えていますが、だからといって彼らが商品を買ってくれるとは限りません。本当のスキルとは、どうやってそれらの問題を重大なものにし、見込み客にアクションを起こさせるか、ということです。アクションを口にし始めた時、それが”バイイング・シグナル”です。」

問題点を言われても売れない

彼女は問題点(潜在ニーズ)はまるで信用していません。重点を置いているのは「アクション」です。具体的なアクションについての言及があってはじめて、見込み客は買う気になっている…と認識するわけですね。経験の浅い新人営業マンは、これに気付くことができずに、問題点をあげてもらっただけで大丈夫だと思ったわけです。

ですが、本来なら問題点を具体的なアクションにまで育ててもらう必要があったんですね。トップ営業の女性は、そのことをよく分かっていたのです。そう考えると、見込み客の言うことをそのまま鵜呑みにしていては、相手の気持ちを理解できないという事態になってしまいますね。

目の前の相手は何を求めている?

たとえば、見込み客が「価格が高い」と言った時、それを言葉通りに受け取ってしまうと、これまた判断を間違うことになります。あるいは、見込み客が「B社の商品の方が性能がいい気がするんですが…」と言った時、数値データを基にに論理的に反論すると、顧客との関係が悪化してしまったり。

営業の仕事って、唯一の正解があるわけではありません。それに、効果的なやり方を教えてもらった経験がない人も多いでしょう。だからこそ「自分のやり方が正しい」と勘違いをしてしまったり、致命的な間違いを知らないまま商談に臨んだりしている人も多いはずです。特に、人間の行動心理については最低限のことは押さえておきたいものですね。

PS
ちなみに「自分の行動心理」について知らないと、いつまでたっても変われない罠にはまってしまいます。たとえばこんな風に…↓

URLをコピーする
URLをコピーしました!

この記事の執筆者

寿コミュニケーションズ株式会社代表取締役/寿防災工業株式会社取締役。読者1万人超の当メルマガ『THE GO-GIVER』発行人であり、福岡で40年続く社員52名の防災設備会社 二代目。1982年生まれ。福岡県出身。筑紫丘高校→九州大学工学部卒(修士)

新卒でトヨタ自動車に入りマークXやクラウンのモデルチェンジ、バンパー塗装工場の新設を担当。4年目で退職し半年のニートを経て教育ベンチャーのダイレクト出版へ転職。1通のセールスコピーで累計2万人超の新規顧客を獲得したマーケティング経験は宝。マネージャーとなりメンバーから総スカン喰らった経験も宝。事業部が年商7億となった5年目、独立して寿コミュニケーションズを創業。

WEBメディア事業のお客様からの依頼でDMサポート事業を始めたら、紹介だけで受け切れないほど仕事依頼があり、現在は新規クライアント受付停止中。BtoB無形商材に特化したDM戦略&戦術が強い。本業は「人の命と建物を火災から守り地域の街づくりに貢献する」防災設備会社で事業承継を前提に組織改善と採用に奮闘中。