競合他社は多い方がいい?

From 安永周平

きっとあなたも1度くらいは「ブルーオーシャン戦略」という言葉を聞いたことがあるでしょう。「ブルーオーシャン」とは、競争相手のいない未開拓の市場という意味で、フランスのビジネススクール・経営大学院であるINSEAD(インシアード)の教授、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが『ブルー・オーシャン戦略』という共著の中で2005年に提唱したビジネス用語です。

レッドオーシャンは避けるべき?

彼らは、対になる言葉として「レッドオーシャン」を使っています。つまりは競合する企業が林立して飽和状態にあり、血みどろの競争が行われている既存市場のことです。そりゃ新規開拓の営業にとっては、競争相手がいないほうがラクに勝てると思いますよね。「戦略」とは”戦い”を”略す”と読む人も多いですし、僕もそう思っていますから、戦わずして勝てるブルーオーシャンは最高だ。レッドオーシャンではアポを取るのも難しいし、価格競争に巻き込まれて利益が残らない…などなど。

ところが、この「レッドオーシャンを避けて、ブルーオーシャンを狙う」というマーケティング・営業における定石が、当てはまらないケースも存在します。営業リスト(見込み客リスト)を作る時、そのスクリーニング条件としてブルーオーシャン戦略を取り入れたいと思う人は多いでしょうが、これはどんなケースでも当てはまるわけではありません。事実、野村證券で「伝説の営業マン」と言われる冨田和成氏は、著書の中でこんなエピソードを紹介しています。

レッドオーシャンだった浜田山周辺

冨田氏が営業していた東京都杉並区では、様々な証券会社がしのぎを削っていました。なかでも最大のライバルは日興コーディアル証券で、配属先の荻窪支店周辺には日興コーディアル証券の支店はありませんでしたが、JR荻窪駅から3kmほど南にある東急井の頭線浜田山駅の目の前には支店を構えていました。

そのため同僚の中には「浜田山周辺は日興コーディアル証券の牙城だから避ける」という暗黙の了解のようなものがありました。野村證券でさえそうだったのですから、他の証券会社の営業もきっとそう思っていた人が多いでしょう。しかし、負けず嫌いな冨田氏は、分け隔てなく浜田山周辺も開拓していたそうです。

そんなある日、彼が自身の営業実績を数字で追っていたら、浜田山エリアの受付突破率が少し高いことに気づいたそうです。さらに住所を細かく見てみると、浜田山2丁目と3丁目の成績が特にいい。それはまさに日興コーディアル証券浜田山支店の半径1km圏内だったのです。いったいなぜ、ここだけ反応がいいのでしょうか?

顧客に既に理解があるかどうか?

冨田氏が顧客の反応を思い出しながら至った仮説は「日興コーディアル証券の営業が何年もかけて開拓してくれたおかげで、証券会社との取引に”抵抗がない顧客”が多いからではないか?」というものでした。この仮説はその後、浜田山を重点的に攻める過程で顧客から直接ヒアリングをして立証されることになります。

「顧客に既に理解があるかどうか」という因子があることに気づいたときは、大きな盲点に気付かされたような感覚だったと言います。実際、金融商品の営業の難しさは「金融リテラシー」のばらつきが大きいことにあるそうです。たしかに、これは想像してみればわかりますよね。普段、証券会社を使っていない顧客にいきなり金融商品を紹介しても拒絶されるでしょう(保険も同じですね)。

レッドオーシャンの方が話が速いことも

ですから「なぜ証券会社を使う必要があるのか?」という存在意義を啓蒙するレベルから始めなければいけないのです。これをゼロから理解してもらうには時間がかかるし、そこに至る前に断られやすいのです。でも、もしほかの証券会社を使っていれば…どうでしょうか?既に商品への知識があるし、需要もあります。さらには金融商品の場合、多くの人は1社としか契約しないわけではありません。だから話が速いんです。

これは、うちの事業でも同じような現象が見られます。もともとネットで商品を買うことに慣れている人は、やはり買ってくれる割合が高いです。もっといえば、ネットで教材やコンテンツなど目に見えないサービスを使うことに慣れている人は、申し込んでくれる割合がとても高いのです。会員サイトやスマホアプリで学習することに慣れている、理解がある…そうした方は弊社のサービスを使ってくれることが多いんですよね。

あなたの商品は”認知”されているか?

僕らは自分の商品・サービスに当たり前のように触れて、当たり前のように使っています。しかし、その商品を買ってくれそうなお客様は、その商品・サービスについて既に理解はあるでしょうか?あるいは、どれくらい慣れているでしょうか? そのレベルによって、僕らがしなければならないアプローチは変わるはずです。

お客さんが「成約」までの階段をゼロから登っているとしたら、今どのあたりの位置にいるのか?特に対面営業においては、1段も登っていない人に「うちは他社より安いです」なんて売り込むのは愚かでしかありません。目の前の相手は自分や自分の商品に対してどれくらいの理解があるのか? 常に自分に問いかけながら、忘れないようにしたいものですね。

PS
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この記事の執筆者

1982年生まれ。福岡県出身。九州大学工学部卒(修士)。『THE GO-GIVER』日本公式サイトの運営責任者。

トヨタ自動車で4年間、生産技術のエンジニアとして勤めた後、ダイレクト出版へ入社してセールス&マーケティングの仕事に従事。3ヶ月後、グループ会社である経営科学出版の事業を任される。年商2億ほどで赤字だった事業部を1年で黒字化。1枚のセールスレターで2万人超の新規顧客を獲得した実績もあり、マネージャーとして事業部の年商7億円突破に貢献。

5年目に独立し、福岡で寿コミュニケーションズ株式会社を設立。現在、建設業を含む2社の経営に携わり営業チームの強化に当たる。ボブ・バーグの日本における独占ライセンシーとなり、当サイト『THE GO-GIVER』を通じて、営業、士業、中小零細企業の社長に役立つ教育事業を展開中。福岡在住。