From 安永周平
先週のことだが、SNSで人気を集める明石市長の泉房穂さんが市議に対して行なった暴言(恫喝・パワハラ)問題をめぐって政治家引退の意向を表明した。3年前には道路工事の立ち退きを進められなかった市職員に対して「火をつけてこい!」と恫喝して炎上し、辞任して出直し選挙では圧勝して再選を果たしたのは記憶に新しい。その後、アンガーマネジメントの講習を受けるなど努力をしていたようだが…あまりよい結果にはならなかったようだ。
これについて、ある方が言及していたのが個人的には腑に落ちた。というのも、泉市長には「市長就任後11年半にも渡る積もりに積もった怒りが爆発してしまった」とか「今回は理不尽な自民党と公明党に完全に切れてしまいました」とか、他者をチクリと刺す他責的な言動が見え隠れする。つまり、自分は他者からの理不尽な言動によってやむをえず怒りを爆発させられた…という意識を持っている。このようなタイプの人が爆発させるのは「怒り」ではなく「被害者意識」であり、怒りをマネジメントしても上手くいかない。マネジメントすべき対象を間違えているのだと。なるほどな…と妙に腹落ちした。
信頼を失くす8つの叱り方
それはさておき、以前雑誌のTarzanで「怒り」に堕ちないマネジメント術…みたいな特集を読んだことがある。それを参考に、私も「やってはいけない怒り方」として現在の考えを整理してみた。あなたが部下を持つ立場だったり、取引先への依頼をすることが多かったりするなら反省することもあるかもしれない(私はたくさんある)もしよろしければ1度チェックしてみてはどうだろうか。
間違い1.感情的になって怒鳴る
「何やってんだお前は?何年この仕事やってんだ!」
怒りの感情とともに瞬間湯沸かし器のごとく頭に血が上り、言いたいことを思いつくままにぶちまける。しかし、感情的になって騒ぎ立てるのは当然NGな行為だ。多少自分のストレス発散にはなるかもしれないが、やられた側は売り言葉に買い言葉で睨みつけるか、それ以前にドン引するかが関の山である。
間違い2.説明を遮り頭から否定する
「言い訳すんな!もっと考えろ、頭使ってんのか!」
相手の言い分を全く聞かずにいきなり否定から入れば、相手だって反撃したくなるもの。自分が怒っているのを伝えることは重要だが、目的は相手を攻撃することではない。まず頭に持ってくるのは否定ではなく、相手を認めるひと言だ。「お疲れ様」のひと言もなく怒鳴られた相手がどんな感情を抱くか考えてみてほしい。
間違い3.機嫌が悪い時に八つ当たりする
「この忙しい時に手間とらせんな、イライラする!」
今日は何だかイライラする、気分が冴えない。そんなイライラを八つ当たりで周囲にぶつけてしまったら「あの人は感情のコントールすらできない」と幼稚な人間のレッテルを貼られるだけだ。そんな怒り方をしていたら、あなたが本当に困っている時に周囲が聞く耳を持ってくれなくなるだろう。そんな人がリーダーの職場の空気はまず悪い。上司へのご機嫌うかがいのために貴重なエネルギーが浪費される。
間違い4.人格を否定する
「バカかお前は!」
昭和世代を筆頭に「バカ」と相手を挑発する人はまだまだ多いが(先の泉市長もその一人)相手の人格はもちろん身体的特徴を攻撃する言葉は禁句だ。自分が言われたことを想像してみるといい。ケンカになるのはマシなほうで、関係がそこで終わってしまうこともある。子供の頃に言われたフレーズ「バカって言う人がバカ」を思い出そう。
間違い5.「期待はずれだ」とこき下ろす
「もっと骨のある奴だと思っていたが…期待した俺がバカだった。」
最近よく言われる「期待するから失望する」という話(個人的にこの考えは好きではない)もそうだが、それ以上に慇懃無礼に皮肉を込めたひと言を放つことの方が問題だ。たとえあなたが冷静だったとしても(むしろ冷静であればあるほど)相手は激怒するに違いない。怒りの感情は危険なものだからこそ率直に伝えるべきもの。嫌味を足してはいけない。
間違い6.過去のミスを引っ張り出す
「去年の◯◯の件といい…お前は何も成長しとらんな!」
今起こった出来事を注意していたはずが、怒りとともに過去の記憶が蘇り「そういえばあの時だって…」と別の問題を引っ張り出す。これはいい大人の対応ではない。仮にあなたが正しかったとしても、言われた側は「それとこれとは別だろう!」と反撃したくなるもの。残念ながら過去の失敗を持ち出して詰めるのは、相手の態度を硬化させる悪手でしかない。
間違い7.決めつけてかかる
「あれだけ時間があったのに、お前は何もしとらんな!」
直接相手の言い分を聴く前に、他人の報告や伝聞、自分の思い込みから決めつけてかかってはいけない。特に「根拠不十分なまま疑ってかかる」のは最悪だ。最初から相手を悪と決めつけてかかる人が、まともな議論などできるはずもない。仮に過去がそうだったとしても、今回は違うかもしれない。怒りを伝えつつ、相手の言い分を聞く余裕が必要となる。
間違い8.脅す
「次やったらクビだからな。よく考えて来い!」
相手の失敗をネタにして脅す。これは怒りを伝えることを通り越して、言葉の暴力である。「パワハラだ」と言われるリスクを気にし過ぎてもよくないが、そもそも脅すのはNGだろう。仮にその場で何らかの得があったとしても、周囲からの信頼がなくなってしまうのは間違いない。どんなに相手が悪くても脅しの選択はよい結果にはならない。
さて、いかがだろうか。程度の差はあれ、私も思い当たる節があったので「イタタタた…」と古傷が痛む思いで書いてみた。あなたが部下を持つリーダーだったり、経営者の立場だったりするなら、1つくらいは思い当たるフシがあったのではないだろうか。
怒りは人間に必要な感情。しかし…
ちなみに、怒りの感情が湧くこと自体は自然なことで、これは何も悪いことではない。自分の地位や立場、権利が不当に侵害されそうになった時、暴力で身体に危険が及びそうになった時、怒りは湧き上がるもの。これは動物としての自然な反応だ。事実、筑波大学人間群心理学類の湯川進太郎准教授は「怒りは肉体的、精神的な侵害に対する警告反応。迫ってくる危険に対して闘争、または逃走するために必要なもので、なくてはいけない感情です。」と言っている。
ただ、怒りの感情は取扱いが難しいもの。ちょっとした間違いによって、部下や取引先との信頼関係を一気に崩壊させてしまう危険性も秘めている。そして、先述の雑誌のTarzanが男女200人にアンケートを取った結果、「上手に怒れている自信がありますか?」という質問に対して、実に87%もの人が自信がないと回答していた。カッとなって怒ってしまい、後で申しわけなくなる…という男性も多いもの。それだけ怒ること、叱ることは難しいし、日本では怒り方・叱り方を学ぶ機会が少ないのかもしれない。
「あなたらしくない」というニュアンス
そこで、1つ参考になる教えがあるので、今日はそれを紹介しようと思う。私が尊敬する経営者の1人で、元スターバックスCEOの岩田松雄さんの研修を受けた時、部下を叱る時に気をつけているのが「自尊心を傷付けない叱り方」だと話されていた。岩田さんがよくやっていたのは「あなたらしくない」というニュアンスで話をすることだったという。
たとえば、「大きな期待をしているあなただから、きっとできたはずなのに、どうしてなのか…」といったニュアンス。また、やっかいな問題の時には「あなたでさえ」というニュアンスで叱るそうだ。「あなたでさえできなかったんだね、よほど大変な問題だったんだろうね…」という気持ちが伝わるような言い方で話を聴いていくのだと。
これには当時、なるほどな…と思った記憶がある。なぜなら、この言い方なら、先の間違いで出てきた人格口撃ではなく、相手の自尊心を尊重しているのが伝わると思ったからだ。実際、私も「◯◯さんらしくないですね…」と言って叱った時には、ちょっと対応が難しい年上の部下の方であっても、素直に自分の非を認めて、次から改善する旨を約束してくれた。そんな経験は何度もある。
相手の自尊心を傷付けない叱り方を
対人関係のエキスパートであるレス・ギブリン氏は、人間関係の最重要ポイントとして「人は大抵の場合、自分の自尊心を満たすために行動する」ということを挙げている。つまり、私たちは、部下や後輩の「自尊心」を満たすことができて初めて、望むように動いてもらうことができるのだ(もちろん、取引先にも同じことが言える)。
「怒り」の感情に振り回され、相手の自尊心を傷つけてしまったら、相手はますます態度を硬化させて、テコでも動かなくなるだろう。あなたの目的が怒ることであるなら、そんなこと気にせずに口撃すればいいかもしれない(もちろん相手からの信頼はなくなるが…)。しかし、私たちの目的は相手に気持ちよく動いてもらうことであるはずだ。人に動いてもらいたい、力になってもらいたいのなら、そのために必要な技術を身に付けなければいけない。
PS
ちなみに、元スタバCEOの岩田松雄さんの本はたくさん出ていて私も結構読んだのだが、言うことはどの本でも一貫している。そして、これがポイントが1冊に上手くまとまっているので、特に経営者の方はこれだけでもご一読いただければよりよい会社に近づくと思う↓