「経験不足」で終わらせるな

From 安永周平

先週のことだ。防災設備のメンテナンス・工事を手掛ける家業(寿防災工業)の方で、ある営業担当の社員が新たな取引先から新規物件の「消防設備点検」の見積を頼まれていた。

ちなみに「消防設備点検」とは…

世間ではあまり知られていないが、火災の時にジリリリッと鳴って逃げ遅れないように知らせてくれる自動火災報知設備や、炎を感知して水を出し初期消火に一役買ってくれるスプリンクラー設備などの消防設備。これらは消防法によって年2回点検を行うことが義務付けられている。その点検は民間の防災設備屋が担うわけで、ありがたくも新規のお客様から私たちの会社にその見積依頼があったというわけ。

で、依頼されていた建物は結構大きな建物だ。福岡の中心街から少し離れたところにある3階建の商業施設で、延床面積は15,000平米超とかなり広い。設備の数も多く、営業を担当して3年目の社員にとっては初となる大型物件と言っていい。彼はこれまで中小規模の物件を多く担当して経験を積んできたが、この規模の案件を担当するのは初めてだろう。それぞれの設備の数や設置状況を踏まえて見積を作ったようだが…1つ問題が起こった。

この現場、何人で何時間かかるか?

いわゆる人工(にんく)の計算で、担当の彼は「5人で1日あれば終わる」と見込んで見積を作成した。設備の数などは丁寧に数え、彼は現場経験もあるので自分のこれまでの経験から考えた人工だったのだろう。しかし、その見積を先輩社員に見せてチェックしてもらったところ「この現場、1日じゃ終わらんよ。2日かかる。5人工じゃ足りない、9人工は必要」と言われ、見積を作り直すように突き返されてしまった。

もちろん、人件費が5人分と9人分では大きな違いであり、その違いは利益に直結する。設備の点検はお客様からすれば”結果が見えない”から大変さが分かりづらいが、問題のあるところもないところも関係なくひと通り点検するから時間がかかる。建物の安全を守るために設備を丁寧に点検するのは大変なことでありマンパワーが必要なのだ。だからこそ、原価となる人工数はできる限り正確に予測しなければならない。5人工と9人工。このズレは見過ごせない。

なぜ、先輩社員は気付けたのか?

そんなわけで、忙しい中で見積を作り直す彼の今後の成長に期待するのはもちろんだが…もっと大きな懸念がある。それは「先輩社員はなぜこの人工のズレに気付けたのか?」ということだ。なぜ先輩は気付けて後輩は気付けなかったのか?その違いは何なのか?これを明らかにしておかないと、同じ問題がまた起こる。そこで先輩社員に「なんで◯◯さんは気付けたんですか?」と聞いてみた。

すると「あぁ、彼はまだ大型物件の経験が少ないので…最初は仕方ないですよ」との答え。これがマズい。原因の特定が雑過ぎる。経験不足で片付けてしまったら何も解決しない。原因が何かを聞くために、先輩社員はどう判断しているのかをもう少しツッコんで聞いてみた。すると「経験上、6,000〜7,000平米くらいが1日で終えられる現場の限界ですね。15,000平米で1日というのはほぼ無理です」との答え。なので…

「それ、営業部で共通認識になってます?」

私がそう聞くと「いや…たぶんなってないですね」と答える。その先輩社員は7,000平米以上の現場は技術部のベテランに相談してから人工数を見積るそうだが…それは彼独自の判断でやっているようだ。実際、近くにいた別の営業社員に同じようにしているかを聞くと「あぁ、たぶん…だいたい?してると思います」と非常に怪しい答え。大型物件の人工の見積は、これが今の実態だった。まぁ実際は、提出前に全て営業部長のもとで修正されるのだが…プロセスに無駄がある。

ベテランの社員はさすがというか必要人工をかなり正確に見積もってくる。それは本人の経験でわかった独自のノウハウがあるからだ。ただ、組織であるならばそのノウハウを彼の頭の中から引き出して、営業部全員に共有していくことが求められる。そうすることで、組織全体のパフォーマンスを上げる余地がまだあるわけだ。

組織で働くことのメリットを活かそう

それに、共通のルールがない(言語化されていない)とリーダーも教えられない。できる人からすれば当たり前のことが、できない人にはいつまで経ってもできない。なぜなら「知らないから」だ。それを「自分が失敗して経験することで学ぶべき」と考えていては組織である意味がない。限られた時間の中でより多くの成果を上げるには、チーム全体の知恵を底上げする必要がある。

「組織」で働くことの大きなメリットは、他人の失敗を自分の失敗として糧とし、次に繋げられることだ。だからこそ成長スピードも上がる。この大きなメリットの恩恵を受けられないのなら、個人事業主でやってるのと変わらない。会社員として組織に所属しているのなら、このメリットを生かさない手はない。そして、これはリーダーの決定次第で変えられる。改めてまだまだ伸び代がある組織だと感じた出来事だった。あなたの会社はどうだろうか? 経営に終わりはない、徐々に改善していくのみ。

追伸:
先日紹介した元スタバCEOの岩田松雄さんのおすすめ本『これからの経営に必要な41のこと』は結構な数の方が手に取ってくれたようで嬉しい。社長はもちろん、幹部クラスの方はぜひご一読を↓

この記事の執筆者

寿コミュニケーションズ株式会社代表取締役/寿防災工業株式会社代表取締役社長。読者1万人超の当メルマガ『THE GO-GIVER』発行人であり、福岡で42年続く社員53名の防災設備会社 二代目。1982年生まれ。福岡県出身。筑紫丘高校→九州大学工学部卒(修士)

新卒でトヨタ自動車に入りマークXやクラウンのモデルチェンジ、バンパー塗装工場の新設を担当。4年目で退職し半年のニートを経て教育ベンチャーのダイレクト出版へ転職。1通のセールスコピーで累計2万人超の新規顧客を獲得したマーケティング経験は宝。マネージャーとなりメンバーから総スカン喰らった経験も宝。事業部が年商7億となった5年目、独立して寿コミュニケーションズを創業。

WEBメディア事業のお客様からの依頼でDMサポート事業を始めたら、紹介だけで受け切れないほど仕事依頼があり、現在は新規クライアント受付停止中。BtoB無形商材に特化したDM戦略&戦術が強い。「人の命と建物を火災から守り地域の街づくりに貢献する」寿防災工業株式会社で2022年11月1日、代表取締役社長に就任。