自分の足の肉を割いて食べる人

From 安永周平

世界最高のリーダー論として知られる中国古典『貞観政要』に、こんなことが書かれてある。

「君主は、人民の生活の安定を心がけなければならない。人民から重税を取り立てて自分が贅沢をするのは、あたかも自分の足の肉を割いて、自分の腹に食わすのと同じである。満腹になったときには体が弱ってしまい、死んでしまう。天下を安泰にしようとするなら、まず、君主自らが姿勢を正す必要がある」

自分の足の肉を食べる人はいないが…

唐の太宗(皇帝)である李世民は、人民を「足」に、君主を「腹」になぞらえ、君主と政府と人民が一体であることを家臣に伝えたそうだ。人が自分の腹をいっぱいにしようと思ってたくさんの肉を食べた…しかし、その肉が自分の足の肉だったとしたらどうだろうか?

食べるたびに足が衰え(そもそも激痛だ)、いずれは立っていられなくなり、身を滅ぼしてしまうはず。 人民と君主の関係も同じだ。自分の贅沢のために重税を課せば、人民は疲弊する。君主を恨んで離反者が出てくるかもしれない。これでは国の安泰は図れない。だから太宗は贅沢を戒めた。

君主は人民に寄生している?

当時、唐の根幹は農業だった。もちろん、太宗自らが生産物を収穫していたわけではない。太宗を支えていたのは、人民がつくる農作物や人民が納める税金だ。つまり人民が生産階級だとすれば、君主(リーダー)は人民に頼るしかない「寄生階級」と言っていい。

一国の生産物が100で、君主はこの中から20を税として召し上げているとしよう。人民の手取りは80になる。仮に人民の生存最低ラインが75だとすると、人民にはまだ5の余裕が残されている。ところが、君主が贅沢を求めて税金を30に引き上げるとどうなるだろうか?

最低ラインを割り込むとどうなる?

人民の生活は脅かされる。生存最低ラインの75を割り込んで70になってしまうからだ。人を使う時は、気持ちよく働いてもらうことを意識しなければならない。太宗が優秀だったのは、75のラインを見極める目を持っていたことだ。しかも75ギリギリに設定するのではなく、80を残す割合にして人民に「+5のゆとり」を与えていた。ゆとりがあるから人民は喜び、君主に背くことなく働いた。

太宗が贅沢をしなかったのは、君主と政府と人民を一体として捉えていたからだ。太宗は足(人民)が弱れば、そこに寄生している自分も死ぬことをよく理解していた。だから人民に重税を課すことはしなかったのだ。この75や80のラインを見極めるのはリーダーにとって非常に重要だ。これは私たちのビジネスにも密接に関係している。

奪いすぎると後が続かない

中国には「官吏(かんり)」という言葉がある。要は公務員のことなのだが「官=官人」と「吏=胥吏」は違う。官人はキャリア組で税金から報酬が支払われる。一方で胥吏は、庶民の中から希望者を集めたノンキャリアで税金から報酬が支払われることはない。

では胥吏はどうやって生計を立てているのだろうか?これは、端的に言えば賄賂やチップだ。胥吏は地方の役所に詰めていて、住民に代わって各種申請などの代行業務を行う。そして代行の報酬として代行手数料という名のチップや賄賂を受け取るのだ。

手数料が高い人は頼まれなくなる

この時。胥吏は法外な額の賄賂を要求することはない。なぜなら、1度にたくさん取りすぎると、後が続かなくなるからだ。役所には胥吏が他にもいて、同業同志の競争もある。あまり欲をかいて代行手数料を上げてしまうと、住民の間で「あの胥吏は高い!」と噂になって、誰も代行を頼まなくなってしまう。だから代行手数料の市場価格は適正価格で落ち着くのだ。

これは私たちの仕事でも同じだ。同じようなサービス内容であれば、価格で勝負が決まるのは当然のこと。初回は取引が成立したとしても「◯◯さんは高いもんね」と言われると仕事が取れないのはもちろんのこと、高いイメージが口コミで広まってしまうこともある。適正価格を大きく超えた金額は、特別な理由がない限りは受け入れられなくなる。

クライアントから見て適正価格か?

コンサルタントが補助金の申請代行をしているケースなんかでも「補助額の20%をいただきます」という条件なら頼む人もいるかもしれない。しかし、30%をコンサルタントの報酬として取られるとしたら…どうだろうか?さすがにちょっと高過ぎると思うのではないだろうか? こうした話が口コミで広まると、仕事を受注するのは難しくなってしまう。

目先の利益に目が眩んで奪い過ぎるのは、自分の足の肉を割いて食べるようなものだと今一度自分に言い聞かせよう。自分が相手の立場だったら…その金額を気持ちよく支払えるかどうかを考えてみるといい。特に紹介料や手数料でビジネスをしている人は要注意だと思う。

追伸:
もちろん社長も、自分の贅沢のために社員を苦しめてはいけない。社長は世界最高のリーダーシップ論『貞観政要』は知っておくべきだと思う。個人的には出口さんの著書が入りやすかった↓

この記事の執筆者

寿コミュニケーションズ株式会社代表取締役/寿防災工業株式会社代表取締役社長。読者1万人超の当メルマガ『THE GO-GIVER』発行人であり、福岡で42年続く社員53名の防災設備会社 二代目。1982年生まれ。福岡県出身。筑紫丘高校→九州大学工学部卒(修士)

新卒でトヨタ自動車に入りマークXやクラウンのモデルチェンジ、バンパー塗装工場の新設を担当。4年目で退職し半年のニートを経て教育ベンチャーのダイレクト出版へ転職。1通のセールスコピーで累計2万人超の新規顧客を獲得したマーケティング経験は宝。マネージャーとなりメンバーから総スカン喰らった経験も宝。事業部が年商7億となった5年目、独立して寿コミュニケーションズを創業。

WEBメディア事業のお客様からの依頼でDMサポート事業を始めたら、紹介だけで受け切れないほど仕事依頼があり、現在は新規クライアント受付停止中。BtoB無形商材に特化したDM戦略&戦術が強い。「人の命と建物を火災から守り地域の街づくりに貢献する」寿防災工業株式会社で2022年11月1日、代表取締役社長に就任。