From 安永周平
中小企業にとっては「伝説」と呼ばれる経営コンサルタント一倉定先生の著書『社長の販売学』では、とにかく社長はお客様訪問をやれと書かれてある。事業の本質は市場活動であり、社長は社内にいるよりも市場にいる時間が圧倒的に多くて当然だと。なんなら「社長が社内にいるのは週1日以内とするべきだ」とまで言っている。1年前なら、私はこの考え方を受け入れるのは抵抗があったが…現在、社員50名規模の防災設備会社の社長をしている立場だと、この意見はその通りだと思う。
目的は販売ではなく「表敬訪問」
お客様のことを知らなければ会社は必ず判断を間違う。ネットやSNSやオンライン会議ツールがどれだけ発達しようとも、面と向かって話すことほどお客様の本音を聴ける手段はない。目的は販売ではなく「表敬訪問」だ。これは社長にしかやれない。もしあなたが社長をしていて、いつもオフィスにいるなら、ぜひ今日の「社長のお客様訪問6つのコツ」を読んでみてほしい。昨今のビジネス書の内容とは全く違うが、こんな時代だからこそ重要なことだと感じる。私も耳が痛い話だが大いに勉強になっている。それではいってみよう。
1.当日の朝は出社しない
社長がお客様回りをする日は、朝会社に行ってはいけない。これをやると「社長が会社にいるうちに…」と役員が相談を持ちかけてくる。管理職は報告やら指示を受けたがる。社長宛の電話営業(テレアポ)がかかってくる。取引先の担当者が来社する…となり、たちまち午前中の時間が潰れてしまう。ともすれば午後までかかり、結局その日は1日会社にいてしまうリスクがあるからだ。
2.アポイントは取らない
業界にもよるが、特別の場合を除いて訪問先の社長や店長などにアポイントは取らない方がいい。というのも、訪問の目的は表敬訪問(ハッピーコール)だからだ。相手がいなくてもいっこうに構わない。その場合は日付を書いた”置名刺”をする。実は置名刺は私たちの想像以上に効果があり、名刺を渡してもらうだけで面会した場合とあまり変わらないくらいだ。社長がわざわざ挨拶にきてくれた、という事実だけで相手が満足してくれたりする。後ほど心配して「何か用がありましたか?」とわざわざ電話をくれることも多い。
3.お客様には1人で会う
社長のお客様訪問は、車移動のために社員や秘書が同行してもいいが、表敬訪問である限り、先方の人には必ず1人で会うことだ。それが社長であっても担当者であっても同じだ。社員の誰かと一緒に会ってはいけない。その理由は、自分が来訪された時のことを考えればよくわかる。たとえば仕入先の社長が、部下とともに自分の前に座ったら、社長に対して言いたいことが言えなくなってしまうはず。社長は先方の担当者とは1人で会うのがエチケットというもの。これを忘れると逆効果になる(お客様の本音を聴けなくなる)から注意が必要だ。
4.相手の要望を聴くだけ
表敬訪問とは、顔を出して挨拶をすることで親近感を醸成する”ハッピーコール”である。だから、普段のお礼の他には、相手の要望、要求事項、苦情や不満をうかがうことだけにする。提出中の見積書について状況を尋ねたり、価格交渉の話したりして、こちら側の希望や要求を出してはいけない。それは表敬訪問とは切り離して、予め用件を明らかにしてから訪問しなければならない。
5.繰り返し訪問する
普段お客様訪問をしない社長が初めて訪問すると、相手は驚いて「何か目的があって来たのだろう。迂闊なことは言えないぞ」と警戒し、こちらの目的を探ろうとする。初回の訪問では相手の社長の警戒心を解くことはできないと心得ておくべきだ。繰り返し訪問をする中で、表敬以外に意図はないことがわかって初めて心を許してくれる。それには繰り返し3〜5回くらいの訪問をしなければならない。ただ、いったんそうなればしめたもので、キツいことを言われることもあれば、打ち解けて話をしてもらえることもある。信頼関係ができていく。
6.面会時間は10分以内
相手の社長と会っている時間は長い方がいいだろうか?短い方がいいのだろうか? 初めての訪問では、相手が気を遣って「あまり短時間で追い返すのは失礼だ」と感じてしまい、30分、1時間…となることもある。初回は仕方ないとして、2回目からは事前に表敬訪問であることを伝えて「10分だけいただきたい」と面会時間を明らかにしよう。「面会時間はなるべく長く」と言う人もいるが、相手も忙しいのだ。その忙しい時間を自分のために割いてくれることを考えれば、長時間がNGだと分かるはず。せいぜい10分以内、訪問回数が増えてくれば5分でも十分だ。
社長は自らお客様を訪問しよう
「そうは言っても社内が問題だらけでお客様を回る余裕がない」という社長もいるだろう。気持ちはわかる。自分が社内にいなくてもいいように、社内環境を整備してからお客様回りをしよう…私もかつてそう思っていた。しかし、社長が社内にいると、社員は指示を仰ぐだけで自分で考えることをしなくなる。いつまでも些細なことを社長が判断しなければならず、余計に社内環境の整備が進まない弊害もある。社内の仕事が整備されることを阻んでいるのは、実は社内に居座っている社長かもしれない。
だから意を決してお客様訪問を始めよう。社内環境の整備も大切だが、社長が経営計画を立てて方針を明文化・言語化さえすれば片づいてしまう問題も多い。会社方針と経営計画を打ち出したら、社員を信じて任せて、お客様の要望を拾うために訪問を続けよう。事業経営というのは、最後は人間対人間の関係だ。お客様とのよい人間関係こそが、お互いにとって何よりの宝であることを覚えておこう。
追伸:
元ネタ、一倉定先生の『社長の販売学』は1991年に刊行されている。30年前の本なのに、今この時代に忘れられている知恵が本当に多くある。成果が出るかどうか分からない新しい情に飛びつくのもいいが、既に数々の実績を上げている骨太の事例と方法論から学ぶことに時間を使うのは賢明な自己投資だと私は実感している。中古しか残っていないので興味があればお早めに↓