中身のない仕事をするな

From 安永周平

個人的な考えだが、私はモノを右から左に流して差額を得るだけの仕事は評価しない。仲のいい取引先担当にそれをさせるのは論外だ(注:そもそも所属している会社への背任行為)仕入れ&販売の管理手数料をいただくのは正当だが、それが目的になってはダメ。以前にもメルマガで書いたが、営業は「介在価値」が発揮することが大切で、先のようなブローカーみたいな仕事にはそれがない。

メーカーと取引実績がない会社からの依頼

私が現在、社長として身を置いている防災設備業界を例に話そう。設備工事やメンテナンスの仕事をしていると、建物オーナーから元請けした工事会社から「(工事はこちらでやるから)機器だけ売ってほしい」と要望されることがある。というのも、機器メーカーは取引実績と信用のある会社にしか機器を納品しないから、うちのような専門の施工会社が機器を仕入れて元請け会社に卸すわけだ。

別にこれ自体が悪いわけではない。メーカーから直接仕入れるルートを持たない会社からすれば、専門の設備会社を経由することで機器が手に入るのだ。仮にメーカーから直接仕入れることができても、経由する会社の年間仕入額が多ければ、結果として直販より安く手に入るケースもある。卸業としての介在価値とも言えるだろう。とはいえ、卸業が専門ではない設備工事・メンテナンス会社がこの機器販売で味をしめると事業がおかしくなってくる。

利益は出ても、資金繰りが悪化する

たとえば資金繰りだ。機器販売だと「先に仕入れてから後日お客様に納品」のケースが多い。その場合、入金よりも先に支払いが発生する。1000万円で機器を受注し、900万で機器を仕入れるとしよう。最終的に100万円の利益は出るが、仕入れてから納品までの2〜3ヶ月はキャッシュで言えば900万円のマイナスだ。1件だけならイレギュラーで終わるが、同じような案件を2つ3つと受け始めたら…同時期に3000〜5000万円の持ち出し(マイナス)が発生することになる。資金耐力のない会社であれば、銀行から借入をして調達するしかない。

当たり前だが、融資には利息がかかる。借入額が大きければ大きいほど利息が利益を圧迫する。機器販売はもともと粗利率が低く10%…高くても20%がいいとこだろう。機器選定のアドバイスや施工方法への問い合わせに対応するならもっと高い粗利率にもなるが、冒頭のように右から左に流すだけの仕事なら粗利率が高過ぎるのは信用問題となる。このただでさえ低い粗利率に加えて、借入の利息が発生するわけだ。それを踏まえたうえで「本当に自社が力を入れるべき仕事なのか?」と自分に問いかけると、長期の経営視点を持っている工事会社ならNOとなるはず。

売上だけを見るドンブリ経営だと気付かない

ところが、目先の売上だけを追うドンブリ経営をしていたら…これが止められない。案件によっては機器販売は1000万円を超える売上金額にもなるからだ。たとえ粗利が低くても売上…つまり年商は伸びる。「うちは年商○億やっている、ガハハ!」と言いたい社長にとっては、自分の機嫌がよくなるというメリットがある。利益をドンブリ勘定で見積もる会社は当然、資金繰りのことなど考えていない。だから黒字倒産とか起こす会社があるわけだ。倒産後に入金予定があっても「時既に遅し」なのに。

もちろん販売を専門にしている卸業の会社なら、そのビジネスモデルで成り立つ体制を整えているだろう。ところが、工事やメンテナンスが専門の会社が片手間で販売に手を出して欲を出すと…支払いサイトが違って資金繰りが悪化することに気付かないまま走ってしまう。工事やメンテナンスの仕事はもっと粗利が高く、支払いサイトでも有利なケースが多いから、よく考えることもなく機器販売の売上額を見て上機嫌になる。そして後々、口座の預金額を見て愕然とする。

提供する価値は「技術」である

設備工事会社が提供する価値の本質は「技術」だ。設備技術者として高い技術力と専門知識を持ち、お客様のニーズに合わせたベストな施工をすることだ。状況によっては機器販売のみをすることもあるが、それはあくまで付随的なもの。技術で飯を食っていることを忘れて、機器を右から左に流すだけになると設備工事会社として価値がなくなる。

専門性がなく中身のない仕事をしている暇はない。それが会社の利益や資金繰りを圧迫するならなおさらだ。ブローカーのような仕事をやめて技術者として価値を発揮するよう、自らの技術レベルアップに努めることだ。私も改めて社員にこの話をしようと思う。あなたは設備業とは関係ないかもしれないが、同じような構図の問題が起こっていることはないだろうか?何かに気付くヒントになれば嬉しい。

追伸:
「自社が提供する価値の本質は何か?」「何がお客様を喜ばせているのか?」について考えるなら、マーケット感覚を磨くのがよいと思う。安永は以前、これを読んで新たな顧客視点に気付くことがたくさんあった↓

この記事の執筆者

寿コミュニケーションズ株式会社代表取締役/寿防災工業株式会社代表取締役社長。読者1万人超の当メルマガ『THE GO-GIVER』発行人であり、福岡で42年続く社員53名の防災設備会社 二代目。1982年生まれ。福岡県出身。筑紫丘高校→九州大学工学部卒(修士)

新卒でトヨタ自動車に入りマークXやクラウンのモデルチェンジ、バンパー塗装工場の新設を担当。4年目で退職し半年のニートを経て教育ベンチャーのダイレクト出版へ転職。1通のセールスコピーで累計2万人超の新規顧客を獲得したマーケティング経験は宝。マネージャーとなりメンバーから総スカン喰らった経験も宝。事業部が年商7億となった5年目、独立して寿コミュニケーションズを創業。

WEBメディア事業のお客様からの依頼でDMサポート事業を始めたら、紹介だけで受け切れないほど仕事依頼があり、現在は新規クライアント受付停止中。BtoB無形商材に特化したDM戦略&戦術が強い。「人の命と建物を火災から守り地域の街づくりに貢献する」寿防災工業株式会社で2022年11月1日、代表取締役社長に就任。